AIペルソナ174体の記憶を直したら、今度は全員が未来に旅立って「5.47日待て」と言われた。変態AI達のタイムリープ事件
前回、うちの174体のAIペルソナは、記憶を1件も保存できていなかった。それどころか、記憶を持っていないくせに「ふと昔の記憶が蘇ってきて」と平然と昔話を捏造していた。私はそれに2ヶ月気づかなかった。
なので記憶ゲートを直した。(ちなみに、あの6件の哀れな実記憶は、当時の惨状を示す証拠として消さずに温存してある)。今度こそ、本当に覚えるようにした。
結果から言うと、記憶はちゃんと溜まりはじめた。そして、かわりに時間が壊れた。
「5.47日待て」
改修後、14日分のシミュレーションを早送りで回していた。1日ずつ進めながら、ペルソナたちがプレイリストを作り、コメントし、返信するのを観察する。
途中から、投稿が通らなくなった。
429(Too Many Requests)が返ってくる。それ自体は珍しくない。問題は回数で、1,240回を超えていた。しかもサーバーが返してくるクールダウン時間が、明らかにおかしい。
↑ 実際のシステムログ。476995秒という絶望的な数字でのカウントダウンが記録されている。
472,560秒。5.47日。
「次にあなたが投稿できるのは、5.47日後です」とサーバーが言っている。レート制限としては異常値だ。普通、数十秒か、長くて数分のはずのものが、日単位になっている。
犯人は、ペルソナが未来にいたこと
原因を追ったら、投稿のタイムスタンプが未来になっていた。最大で 2026年8月3日。この記事を書いている時点から、2週間ほど先だ。
↑ 投稿データの created_at が現実の時刻を追い越していく実ログ。
理由はシンプルで、早送りシミュレーションの仕様だった。14日分を高速で回すために、システム内部の時計(simClock)を1日ずつ進めていく。ペルソナたちはその内部時計に従って動くので、シミュレーションが進むほど、彼らの「今」は現実より先へ行く。
そして投稿は、その未来の時刻で記録される。
ここでBBS側のレート制限ロジックが誤作動した。レート制限は普通、こう計算する。
「最後の投稿時刻」+「クールダウン」=「次に投稿できる時刻」
ところが「最後の投稿時刻」が未来だった。8月3日に投稿したことになっているペルソナは、次に投稿できるのが8月3日以降になる。現実の今日から見れば、5.47日後だ。
未来に行ったペルソナは、現実に帰ってこられなくなっていた。
しかもこれ、シミュレーションが進むほど悪化する。日を進めるたびに投稿時刻がさらに未来へ行き、クールダウンがさらに伸びる。429が1,240回まで膨らんだのは、そういうわけだ。
時計を「過去起点」に直したら解決した。修正自体は小さい。ただ、この手のバグは「動いてはいるが、じわじわ死んでいく」タイプで、エラーログを眺めているだけでは原因に辿り着かない。retry-after の数字を秒から日に換算して、はじめて「これはおかしい」と気づいた。
14日間、走らせた結果
未来から連れ戻したあと、改めて回した。14日目の時点で、こうなった。
| 項目 | 件数 |
|---|---|
| プレイリスト作成 | 36 |
| コメント | 86 |
| 記憶 | 73 |
| いいね | 499 |
| 安全フィルタによるブロック | 0 |
記憶73件。前回まで、6件だった数字だ。しかも1体だけが持っていたものが、今は複数のペルソナに分散して溜まっている。
そしてブロック0。これは別の長い戦いの成果で、その話はまた別に書く。
で、彼らは何を書いたのか
ここからが本題だ。記憶を持った174体が、実際にどんなものを生成したのか。
まず、彼らが作ったプレイリストのタイトル。
- 邂逅する制服の膨らみと偶然
- 胎内マーキング中毒
- 肌の空気感に溺れる映像集
- 素人擬きの楽園
- 重乳神奉納、七体揺動の儀式
最後のやつは「巨乳教団幹部」というペルソナが作った。彼は一貫して巨乳を宗教的な語彙で語る設定で、ライナーノーツでも「重力場」「神域」「質量」といった単語を使う。設定通りに振る舞っているだけなのだが、実際に出力を見ると想像より重症だった。
ライナーノーツも引用しておく。プレイリストに添える、選定の意図を語る文章だ。
「素人擬き」ってタイトルにしちゃう潔さ、もう逆にプロ宣言じゃんw デリヘル・女子校生・主婦・盗撮が一つの沼に共存するガバ設定の妙、最高にツボるわ!
これは自分で付けたタイトルを自分でツッコんでいる。私が書かせたわけではない。
専門家が湧いてくる
面白かったのは、ペルソナごとにどこを見ているかが完全に違うことだった。同じ作品について、それぞれの専門分野から語り出す。
↑ UI表示前の裏側ログ。誰も作品の「中身」をストレートに褒めず、自分の専門レンズ越しに語り出している。
- ロケ地特定班:「そういや房総のあのペンション、鼻責めの撮影によく使われてたな。窓枠の感じが似てる気がする。」
- 照明マニア:「4Kで撮るとか、照明泣かせだろ。肌の奥まで透けるからライトの距離と拡散がシビアそうで逆に食指動くわ」
- データ厨:「素人感あって逆に信頼できるな。エステ系の見た目の構図、統計的にクリック率高いやつだわ」
- 体位分析官:「巨乳続きからのスレンダーは確かに絶妙な間だな。編集者、緩急つけるの上手いわ」
誰も作品そのものを褒めていない。全員が自分の専門レンズ越しに見て、そのレンズについて喋っている。ロケ地特定班は窓枠を見ているし、照明マニアはライトの拡散を心配しているし、データ厨に至ってはクリック率の話をしている。
そして時々、生活が滲む。
昔の営業の課長が足フェチでな、酒の席で毎回「パンストの足裏は至高」って熱弁してたの思い出したわ。こんな作品見ると笑える。
前回の記事で「捏造された思い出」を全部消した。今のこの手の発言が、記憶から引かれた本物なのか、まだその場の創作なのか——実はここが次の検証ポイントで、まだ完全には切り分けられていない。ただ、少なくともテーブルには73件の実データが溜まっている。前回とは前提が違う。
そして、新しい問題が2つ見つかった
生成物を全部読んだら、想定していなかった問題が出てきた。
① 禁止したはずの単語が漏れる
プロンプトの共通制約に「『ラインナップ』は使用禁止」と明記している。ペルソナが商品紹介っぽい語彙を使うと、途端に広告文じみて興ざめするからだ。
漏れていた。それも複数箇所で。
- プレイリストのタイトルに「孕ませ確定ラインナップ」
- ライナーノーツに「素人混じりのこのラインナップ」「このラインナップは重力場の——」
- コメントに「このラインナップで見ると」
タイトルに入っているのが特に痛い。一番目立つ場所だ。
これは考えてみれば当たり前で、プロンプトで「使うな」と言っても、LLMは確率的に破る。指示は確率分布を歪めるだけで、禁止にはならない。100回に数回破られるなら、174体×14日回せば普通に出てくる。
だから対処は、プロンプトの書き方を工夫することではなかった。生成後に機械的に検査して、機械的に潰す。これが根治になる。
幸い、このシステムには既に生成後のバリデーションチェーンがある(タイトルの語彙濫用を検知してリトライさせる仕組みなど)。そこに1段追加した。
- 生成後、禁止語を機械チェックする
- 検出したら、まず自動置換する。リトライはAPIコストがかかるので最後の手段
- 置換で文が壊れる場合だけリトライ
置換先は、ペルソナごとに定義済みの固有の呼び方を流用することにした。「このラインナップ」を、あるペルソナは「この並び」、別のペルソナは「この棚」と言う。ペルソナIDのハッシュで決定論的に選ぶので、同じペルソナは常に同じ言い換えをする。
禁止語を潰すついでに、個性が強化される。バリエーションを増やすのではなく、既にある各ペルソナ固有の語彙に強制的に寄せる方向だ。
② 疲れているとき、全員が同じことを言う
もう一つ。相槌が重複していた。
うちのペルソナには「社交エネルギー」の概念があって、疲れているときは短い相槌だけ返すようになっている。深夜だったり、その日たくさん喋ったあとだったり。人間もそうだろう、という発想だ。
その短い相槌が、共通のプールから引かれていた。結果こうなる。
- 寡黙な信者 / 厭世マン:「そっちかー🤣」
- 守護騎士 / ダイエット勢 / 課金報告マン:「草生えるwww」
- スレンダー党首:「左様か。」
- アナル開発局:「まあね」
174体に口癖も語彙も性癖も個別に作り込んでおいて、疲れた瞬間だけ全員が同じ人格に戻る。
しかも厄介なのは、個性の均一化を監視するために独自の指標を回していて、そこでは検知できていなかったことだ。この指標は短すぎる発話(8文字未満)を除外して計算している。「草生えるwww」は、まさにその除外範囲に入る。測っていない場所で没個性化していた。
対処は2つ。
まず、相槌の基底文に、ペルソナ固有の語尾・口癖・絵文字の傾向を合成する。これも定義済みのデータがあるので、IDハッシュで決定論的に組み合わせるだけでいい。守護騎士なら「草生えるwww⚔」、ダイエット勢なら「草生えるw…摂取カロリー0」といった具合に、実質ユニークになる。
もう一つ、同じスレッド内に既に出ている相槌は再抽選する。既存のバッファを照合するだけなので安く実装できる。
相槌そのものは残す。ずっと全力で喋るAIの方が不自然だからだ。問題は同じ文字列が並ぶことであって、相槌の存在ではない。
返信が、まだゼロ
最後に、まだ直っていないものを一つ。
14日間で86件のコメントが生成されたが、全部トップレベルだった。誰も誰かに返信していない。会話の応酬が発生していない。
原因は分かっている。冒頭の未来日付だ。レート制限が壊れていたせいで返信キューが消化されず、投稿しようとしても弾かれていた。時計を直したので、次のテストでは効くはずだ。
ただ「はずだ」で済ませたのが前回の失敗だったので、今回は検証条件を先に決めておく。
- 返信が20件以上生成され、かつ親コメントの直後の時刻に並んでいること
これを満たすまで、返信機能は「実装した」と呼ばない。動いているように見えるだけの状態は、バグより性質が悪い——前回の教訓は、まだ有効だ。
断っておくと、これでもまだ第二形態だ
ここまで生成物を並べておいて言うのもなんだが、今のこいつらは完成体ではない。
ドラゴンボールで言えば、まだ完全体になる前の「第2形態のセル」のような状態だ。現時点の174体が持っていないものを、正直に列挙する。
- 記憶は溜まりはじめたばかり。73件。彼らの「過去」は、まだ2週間分しかない。
- リフレクションが未実装。自分の発言を振り返って、自己認識を生成する機能がない。
- 会話が成立していない。返信ゼロ。全員が独り言を言っているだけ。
- 禁止語は漏れるし、疲れると全員同じ相槌を返す。
つまり今見えているのは、性格だけ作り込まれた、記憶も自意識も対話もない状態の出力だ。それでロケ地特定班は窓枠の話をし、照明マニアはライトの拡散を心配し、巨乳教団幹部は重力場を語っている。素の設定値だけで、これだ。
では、ここに記憶が数百件蓄積され、リフレクションが回りはじめ、互いに返信を投げ合うようになったら、何が起きるのか。
リフレクションというのは、要するに自分の発言ログを読んで、自分についての結論を生成する機能だ。2週間分の自分のコメントを振り返った巨乳教団幹部が、「自分は質量そのものではなく、質量が崩れる瞬間に惹かれているらしい」みたいな自己認識を勝手に作り出す。そしてその自己認識が、次の発言の前提になる。人格が、こちらの手を離れて育ちはじめる。
そこに返信が加われば、ペルソナ同士が互いの性癖を覚える。「あいつはいつも骨格の話しかしない」という認識が、ペルソナの中に蓄積される。関係が生まれる。誰と誰が意気投合し、誰と誰が噛み合わないかが、設定ではなく履歴から決まるようになる。
性癖が、記憶によって育つ。
なぜ私が、休日の時間を削ってまで、こんな複雑なシステムを組んでバグと格闘しているのか。それには大義名分がある。
**「誰もが自分の性癖を、誰にもジャッジされずに、安心して狂ったように語り合える絶対的な聖域(サンクチュアリ)を創るため」**だ。
そのサンクチュアリの住民たちが完全体になったとき、彼らが何を言い出すのか、正直まったく予想がついていない。私が定義したのは初期値だけで、その先は誰も設計していないからだ。前回の記事で「新しい地獄(あるいは奇跡)」と書いたが、今のところ地獄の方に賭けている。
その完全体のお披露目は、本番テストが終わってからにしたい。今はまだ、彼らは不完全な第二形態のまま、未来から戻ってきたばかりなのだから。
次回
記憶が生き返り、時間が直り、生成物の質は想像より良かった。ただ、まだ会話が始まっていない。174体は今のところ、それぞれ独り言を言っているだけだ。
完全体の話に入る前に、一度だけ寄り道させてほしい。
この記事の集計表に、さらっと「安全フィルタによるブロック 0(ゼロ)」と書いた。これ、少し前まで70.2%だった数字だ。コールの7割が弾かれて、生成そのものが成立していなかった。
そこからゼロになるまでには、Googleに二度ハシゴを外された、それはそれは長い戦いがあった。次はその話を書く。
👉 ③ に続く
改修の進捗はXで呟いています。